無情の一撃 Giroflée

 僕は両親の反対を押し切って、十二歳で海に出た。不幸なことに、最初に出会ったのが意地の悪い船長だった。海の世界のあれこれなんて噂で聞いたことしかなかった僕は、八日にわたる体験ののち、自分の馬鹿さ加減をひどく悔やむことになった。「ああ」、僕はひとりごちた、「優しい両親のもとを離れる必要なんてあったのか?残酷な船長にいじめられるために?」とはいえ、船の上ではとても気の合う友を見つけることもできた。気立ての良いフランス人で、人をからかったり冷やかすのが得意だけれど、冗談好きなのと同じくらい人好きのする男だった。八日間が過ぎる頃には、僕らは友達みたいにからかいあい、兄弟みたいに仲良くなっていた。年の頃は三十くらいで、腕っ節が強く筋骨隆々、平の水夫だったけれど、甲板員クラスよりも船乗り暮らしは長かった。そのことで船長に談判することもできただろうに、どうして昇進を求めないのか尋ねると、彼は言った。「船の士官ってやつはな、それ相応の読み書きができなきゃならないんだ。でなきゃあ士官とは言えないからな」。我が友はこんな男だった。勇敢で、誠実で、正直者で……いくら言葉を費やしても書き尽くせない。彼のことを思うと、涙がこみ上げてくるんだ。
 ある夜——恐ろしい時化がやってきて——波は舷側を越えて打ち上げてきた。僕は船長と操舵手とともに艦橋にいた。雷雲から降りそそぐ雨の雫が舷灯のガラスを伝って流れ、索具が風を切って唸りをあげた。突如、巨大な波が夜の闇に真っ白な波頭をもたげ、上看板を横殴りに撃ち据えた。僕は波にさらわれたが、幸いにもロープではしごに身を結わえていた。年とったアザラシみたいに咳き込み、息を切らせながら這い上がったとき、僕は操舵手が十字を切るのを見た。あいつはブルトン人なのだ。舷牆に身をもたせた船長は、海面を見つめながら肩をすくめ首を振っていた。僕は眼で友を探した。彼の姿はどこにも見当たらなかった。僕は操舵手の方へ駆け寄った。するとあいつが口の中で祈りをつぶやくのが見えた。それからあいつは、皮紐の付いた銀の大きな懐中時計を取りだし、舷灯にかざしてなんとか数字を読みとった。「いま十一時」、あいつはゆっくりと言った。「奴なら四時までは泳ぐことでしょうな」。