2008-12-01から1ヶ月間の記事一覧

ティベリスの妻問い Les Noces du Tybre

傾きかけた陽光が彼女の歩む径となる カチュール・マンデス(『宵の明星』) ホルタの街の近郊で、ナル河はティベリス河に流れこむ。そのあいだを隔てるものは、ほんの小さな砂州とてない。まったく、ひとつの波も、ひとつの沫さえも立つことはないのだ。た…

画狂老人北斎伝 Hokusaï, le vieillard fou de dessin

古今東西の歴史や伝説に精通したシュウォッブだったが、生前に遺した文章の中で、日本の事物や人物に言及した箇所は存外少ない。そのわずかな例として真っ先に思い浮かぶのが、『架空の伝記』序文に触れられた北斎に関するエピソードだろう。 初の本格的なシ…

ガレー船徒刑囚の歎き La Complainte du Galérien (XVIIème siècle)

マルセイユに着いたとき 俺の心は魂消えた 見たのは徒刑囚の群れ ふたりひと組に繋がれた 俺は芯から魂消えた 逃げ出す手だてはないものか そこへ手痛い綱打ち一閃 否応なしに進まされた ガレー船に乗ったとき 監視人に出会した 怒りに満ちた面つきの カイン…

イタチのオジグ

ロングフェローの長詩『ハイアワサの歌』The Song of Hiawatha (1855) は、北米インディアンの伝説を下敷きにした創作叙事詩として名高い。その第一章と第三章をボードレールがかなり自由な翻訳でフランス語に移し替えているが、うち「平和のパイプ」と題さ…

闇塩売り Les Faux-Saulniers

シャルル・モラースに どういうわけで王のガレー船の櫂を漕ぐこととなったのか、それを話すのは屈辱に過ぎる。だが、十五ピエのペン*1を握って水に数書く人種は五通り、トルコ人*2か新教徒、塩の密売人に脱走兵、それに窃盗犯−−その中から最悪と思うものを選…