2008-10-01から1ヶ月間の記事一覧

アルス島への旅(前篇)

モルビアン湾は、ブルターニュ南部の大西洋に面した入り海である。東西20kmあまり、南北に10kmあまりの湾内の広さにくらべ、湾を抱きかかえるように向きあうふたつの半島に挟まれた外海への出口は、約700mほどの幅しかない。湾と言うよりも沿海の湖と言った…

造物神モルフィエル伝 Vie de Morphiel, démiurge

モルフィエルは、他の造物神たち同様、〈至高存在〉がその名を口にしたときに、実在の世界へと呼び出された。するとたちまち、彼はサール、トール、アロキエル、タウリエル、プタイール、そしてバロキエルと同じく天の工房にいた。この仕事部屋を司る造物神…

ラムプシニト Rampsinit

目覚めの朝に死者の腕を差し伸べた盗賊との一夜が開け、ラムプシニトス王の娘アフーリは恋に落ちた。彼女は父王に、自らの処女を捧げた男を夫としたいと申し出た。盗賊への畏敬の念にうたれた老王はこれを許し、そのうえ玉座と、石壁で固めた倉の財宝までを…

オルペウス、イザナキ、ラムプシニトス

短篇「ラムプシニト」を書くにあたって、シュウォッブはヘロドトス『歴史』第II巻121、122章のふたつのエピソードを利用している。そのうち後者は、エジプト王ラムプシニトスが、冥界の女神のもとへ赴き、金のハンカチーフを手に入れて戻ってくるという内容…

アルスの婚礼 Les Noces d'Arz

バデール*1の下方、モルビアン湾*2を見下ろす丘の頂に、私たち−−私の馬と私−−は到着した。わが乗獣は潮の香の混じる空気を吸いこみ、頸を伸ばし、岩の割れ目からわずかに生えたヒースを毟りはじめた。私たちの足下で、丘は降るにしたがい舌の形にすぼまって…

序文 Préface

この書物には、いくつもの仮面と隠された顔が収められている。黄金仮面の王、毛皮の面をかぶった未開人、ペストに面貌を蝕まれたイタリアのならず者と作りものの顔を持つフランスのならず者たち。赤い帽子に頭を包んだガレー船徒刑囚。鏡の中でたちどころに…

オジグの死 Le Mort d'Odjigh

J・H・ ロニーに 人類が滅びの淵に立たされていたそのころ、太陽の輝きは月の冷たさに満ち、とこしえの冬に大地はひび割れた。地底の燃えるはらわたを天へと噴き上げ屹立した山々も、すでに灰色に凍る溶岩におおわれてしまった。幾条もの亀裂が、ここでは…